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第4回 職場訪問 武田先端知ビル・クリーンルーム
http://sentanchi-lab.t.u-tokyo.ac.jp/

武田先端知ビル
武田先端知ビル(浅野地区)
 今回の職場訪問は、技術部調整室準備委員会からの取材依頼で武田先端知ビルクリーンルームにお邪魔しました。4月から実施される技術部のジョブマッチング先として、一技術職員としても大変興味深い取材となりました。
学内向け詳細版
情報センター(以下「情)」):まず武田先端知ビル設立の経緯からお聞きしたいと思います。
杉山先生
杉山先生
 杉山先生(以下「杉)」:武田先端知ビルは、(株)アドバンテストの創始者である武田郁夫さんの寄付でできました。工学系のクリーンルームは、30年前に電気系でつくったものが最初です。それは今も有効に機能しているのですが、いろいろな分野の人が共同利用できるクリーンルームがないので、工学系でつくって欲しいという運動を20年近くしました。まぁ20年かけてようやくできた待望の共同利用クリーンルームということですね。


情)研究科での位置付けはどのようなものですか。
杉)武田先端知ビルは工学部とVDEC(VLSI Design and Education Center:大規模集積システム設計教育研究センター)の共同利用施設です。工学部については、2006年4月から総合研究機構が管理運営を担当します。物理的にもVDECとの仕切りは一切つけず、お互い仲良くやりましょうということで運営しています。定常的な利用者は航空、機械、電気、情報、マテリアル、化学など工学部全体から来ています。それから、もちろんスポットで使いたいという人にも解放しています。「武田先端知に行けば何か面白いことができる」と言っていただくことを目標に運営しています。

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情)VDECというのはどのような組織ですか、また学外からの利用も可能ですか。
半導体ウェハ(チップ)
半導体ウェハ(チップ)
杉)大規模集積システム設計教育研究センターというのがVDECの正式名称で1996年にできました。全国の大学・高専でLSI設計の教育・研究を高度化し、人材の育成を促進するための組織です。全国の共同利用組織ですから、基本的には国内のアカデミックな利用者に対して開放しています。学外からも早稲田大学や、遠くは愛媛、北陸先端科学技術大学など非常に幅広く利用されています。


情)VDECはどのような活動をしていますか。
クリーンルーム2(クラス100)
クリーンルーム2(クラス100)
杉)標準的なLSI製造プロセスを大学で行うことは,人的・資金的に大変な負荷です。このため,製造はVDECを介して民間に委託することにして,VDECの利用者は新規LSIの設計に集中できる環境を整えています。利用者が欲しいチップはごく小さいのですが、たとえば直径200mmのウェハーを製作すると数百万円から数千万円かかるため、気軽に作ることはできません。そこで全国の大学・高専で設計したチップを乗り合いバスのように組み合わせて一個のレイアウトにして工場で製作してもらうと、コストを大きく下げることができます。このように、新規LSIを設計して、出来上がったチップを評価し、次の設計にフィードバックする、というのがVDECの標準的な利用形態です。ただLSIの製作を全くやらないということではなく、マイクロマシン、バイオケミカル、マイクロリアクターなど、新しくて標準化されていないプロセスに特化して研究開発を行っています。そのプロジェクトの中核を占めるのが、技術部にお手伝いをお願いしたいと思っている電子線描画装置です。


情)どのようなクリーンルームがありますか。
クリーンルーム1(クラス1)
クリーンルーム1(クラス1)
杉)クラス1から1000までクリーン度の異なる3つのクリーンルームを持っています。一番クリーン度が高い部屋はクラス1という最高クラスのクリーンルームで、山手線内では唯一のものです。

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情)クリーンルームにはどのような装置がありますか。
電子線描画装置
電子線描画装置
杉)たくさんの装置がありますが、大きく分けるとVDECの予算やユーザーの資金をやりくりして購入した共用機器と、各研究室が持ち込んだ装置の2つに分けられます。研究室が持ち込んだ装置でも空いていれば貸し出せる物もあります。中でも特筆すべき装置は(株)アドバンテストからご寄付いただいた電子線描画装置で、微細加工のパターンを作る機械です。非常に高精度な加工を高速でおこなえるのが特徴で、使用の申し込みが全国から殺到しています。その他にもプラズマエッジング装置、レーザ加工装置などたくさんの装置があります。

情)今後どのような体制造りをお考えですか。
杉)今の体制はクリーンルームを運営していくための最低限の陣容なので、例えば電子線描画装置の使い方がわからない人に、「設計図があれば書いてあげますよ」という業務はできない。私がいつも言っているは「クリーンルームを工作室にしたい」ということです。工作室も二つ機能があるじゃないですか。ひとつは工作機を提供して利用者の腕次第で何でもできる、それと機械の使い方が分からなくても図面があれば相談しながら加工してもらえる。ここでも2番目の機能がないと「やりたいけれど、どうしたらいいか分からない」という需要は拾えないし、それが実現できなければ、工学系共通のクリーンルームとしては片手落ちなんだろうと思いますね。

情)今は利用者が使いこなさなければいけない?
杉)そうですね。ヘビーユーザーはそれで良いのでしょうけれど、それ以外にも潜在的な需要が結構あると思うんですよね、「こういうの作れない?」とかね。今はスタッフが足りないから、そういう話があっても利用者である学生さんに頼まざるを得ない、でも今彼は、論文作成に忙しいからできないとか・・・。そういう意味で本来引き受けたいのだけれど「ちょっと待って」といっているところがあるので、コーディネータ兼チーフオペレータみたいな人がいないというのが一番大きいかな。

情)研究室の事情と似ていますね。技術職員数を工学系全体でならすと、2研究室に1名しか配置できないところまで減っています。そこから共通系の人を除くと、実際はもっと手薄という計算になります。そういう体制の中で今後どうするの?ということですね。
クリーンルーム3(クラス1000)
クリーンルーム3(クラス1000)
杉)そうですよね。そういう意味ではこのクリーンルームも4月から総合研究機構で見ますし、ナノ工学センターで高性能の電子顕微鏡を共同利用に提供してきた良い例もあります。執行部のポリシーとしては、共用できる機械はできるだけ集約して、そこにちゃんと人を配置したいということなんですね。クリーンルームはその最たる例だと思います。共通部門がある程度高い技術を持ってそこに相談に来てもらう。ここまで人員的に厳しくなるとそういう方向を考えざるを得ないと思います。でも共通になると人と人の関係が希薄になってうまくいかない部分が出るのも分かっています。ここのように新しい装置が入って人が必要になっても補充しにくい、いろんな難しい要素はあって研究科としても深い問題になってくると思います。

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情)これだけの施設を維持していくには予算面でも大変だと思いますが。
杉)理想はここを使っている人たちでプロジェクトを走らせて、維持管理費を稼ぐというのが基本です。そのため学内だけでなく学外の研究者と共同研究を立ち上げるという試みや、産学連携室から企業にも売り込みをしているところです。企業でもニッチなことができるクリーンルームは少ないようで、標準化されていない新しいことを試みる場所として売り込んでいます。それがうまくいくまでは皆さんの持ち寄りと、工学部に理解してもらって補充していただければ有り難いかなというところですね。

情)クリーンルーム管理は難しいのですか。
杉)クリーン度の維持はエアコンを切ってもファンさえ回っていればいいのでそんなに難しくはありません。ここは空調にルームエアコンを使っているので、一番立ち上げが簡単なクリーンルームなんです。ただガス関係のチェックとかスクラバーなどはちゃんと見ないといけないですし、間違った使用法をしていないかWebカメラで監視したり、やることは結構多いです。クリーンルームの維持・管理業務は外からは見えにくいのですが、とても重要な仕事です。

情)こちらに所属する技術職員はどのような仕事をするのでしょうか。
クリーンルーム2
クリーンルーム2
杉)まずクリーンルームのクリーン度を保つ仕事があります。クリーン度を維持するために非常に多くの機械がありますのでその運用をしていただきます。またユーザーが入れ替わりますので、クリーンルームを使用するための教育、指導をおこないます。あとはクリーンルームにある実験装置・機器のメンテナンスですね、それらを最高の状態をキープしてユーザーと一緒に開発をおこなっていただく仕事があります。この部分では論文を書いて海外の学会などにも発表できます。欧米の大学ではここにあるような装置には1台に1人技術職員が付いて、メーカーが教えを請いに来る位レベルが高いです。ここでも是非そのような人材に育って欲しいと思います。

情)本日はありがとうございました。

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インタビュアー感想
 
  • 山手線内で唯一というクラス1を含む3つのクリーンルームと、高度な装置が整然と立ち並ぶ清潔な仕事場を取材させていただきました。高度な装置群の運用はユーザー頼りの部分があるとお聞きして残念に感じました。その是正と教育研究の更なる発展に技術職員が貢献できるのであれば、大学にとっても技術職員にとっても非常に良いことですので、是非若い技術職員の方に興味を持っていただければと思いました。

  • 杉山先生にクリーンルーム設立に至るまでの経緯をお伺いし、特に費用の面で大変なご苦労をされていることが印象に残った。
    クリーンルームを維持するためには多くの費用が必要となるものの、できるだけ少ない費用で維持できるようにいくつもの工夫がなされており、大学に存在するが故に企業や研究所では見られないような技術が開発されているのだと関心してしまった。
    一台で億単位の装置が置かれており、主としてユーザが操作法を習得した上で利用していることを聞くと、これこそ技術職員がその専門性を大いに発揮できるものではないかと感じた。
    花粉症で苦しんでいる方にお奨めします。

  • 今回情報センターの一員として初めての取材でした。
    他学科で働く技術職員の仕事(ほんの一部ですが)を見させて頂くことができて光栄です。ありがとうございました。

2006年3月9日
クリーンルーム(武田先端知ビル)にて収録
インタビューアー 山内 川手 小林 畠山

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