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第六回 技術部ホームページ企画

 ホームページ企画の第6回は、4月に研究科長に就任された松本先生へのインタビューです。松本先生は機械工学専攻に所属されています。機械系は技術職員も在籍者も多いため、先生は技術職員問題に関しても多くの知見をお持ちです。今回は工学系研究科長としての立場から、研究科と技術部をどのように舵取りしてゆくのかについてお聞きしました。

松本研究科長インタビュー

先生の生い立ち、子供の頃のお話から伺いたいと思います
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 先祖は愛媛県新居浜の出身ですが、私が生まれたのは兵庫県の加古川市です。小さな頃は田んぼの中の一軒家に住んでいました。当時としては珍しいドイツ風の洋館でしたね。小学校の頃は父が勤めていた社宅暮らしでした。中学からは神戸の舞子というところに引っ越しました。高台で景色が良かったですね。中学は近くの神戸市立歌敷山中学に行きました。高校は灘高です。

そのころのエピソードなどはありますか
 わりと無鉄砲というか、危ないこといっぱいをやっていました。小学校5年生の頃に自転車でジャンプして遊んでいたのですが、ジャンプ台の角度をつけすぎて顔面から落ちてしまいすごい怪我をしたこともありました。その時の怪我の跡は今でも残っていますよ。あとは機械とかいろいろなものを分解したり、模型を作ったりするのがすごく好きでしたね。

スポーツは何かされていましたか
 中学、高校はサッカー部でしたので、体を動かすのは嫌いじゃありません。スキーは今でも毎年行きます。はじめたのは高校の頃で、当時六甲山に人工スキー場があって、時々友達と行っていました。大学でも、友達と山に登ったりしていました。今でも時間があれば山に行ったりするんですが、院生の時に南アルプスで100m位滑落して、ヘリコプターで降りてきたという経験があります。這い松に引っかかって助かりましたが、もし止まっていなかったらどうなっていたか分からないですね。

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大学は東大に進まれたわけですが、専門はどのように選択されたのですか
 父親も機械工学を専攻しています。その当時から機械というとつぶしがきくとか食いっぱぐれがないとか言われていましたが、別にそう思ったわけではなく子供の頃から割とものをいじるのが好きでしたので、自然に機械工学科に進学したようなところがあります。

研究という道を選ばれたきっかけと、専門分野を選んだ理由をお聞きします
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 どういうつもりで書いたか覚えていないのですが、中学の卒業文集を見てみるとなぜか「研究者になりたい」と書いてあるんですよね、社長とかではなく(笑い)。もう少し前になりますが、母親に連れられて十三参りに行きました。そこで好きな字を書いて納めるんですが、「仁」と書いたつもりがなぜか「伝」になってしまった。「伝」というのは伝えるということで、教育という意味もありますよね。そして研究テーマが「伝熱」(一同納得)。こじつけみたいだけど、そんな話もあります。
 機械科に入ってから一番印象が深かった講義は、甲藤先生の伝熱工学でした。明確なロジックがあって、それを使っていろいろなことができる、それが非常に魅力的でした。熱とか流れとかに興味があったので、そのまま今日まで進んできたという感じですね。4年の時はその甲藤・庄司研で卒論をやらせていただきました。庄司先生のスタイルは応用的というよりは、非常に基礎的で、新しいことを見つけだして自分で論理構築をしていく、それが印象的でした。それが研究は面白いなと思った最初だったかもしれない。
 大学院では内田・斉藤研にお世話になりました。ミクロな現象がマクロなことを支配するようなマルチスケール性の強い研究をやっていました。企業で研究を続けるつもりだったのですが、内田先生から「残りませんか?」といわれて、白倉先生が教授をされておられた流体工学研究室に入りました。熱から流体に移ったわけですけども、根源的なところに立ち返ってみると熱だ、流体だなんて何の区別もないわけで、例えば分子レベルで話をしようと思えばどっちも同じですよね。研究をやるには視野を広くしてやった方が効果も上がるし、有効な仕事ができるというのはそのとき身をもって感じたわけですね。

研究科長に就任されて仕事はいかがですか、また研究科としての課題をお聞かせください
 研究科長は忙しいです(笑)。半分くらいは研究室にいられるかと思いましたが、全然違いましたね。研究科長室にいて一生懸命やってないといけないです。課題としては、6年の法人化中期計画の3年目なので、その成果を中間評価というかたちで問われています。法人化の成果を世の中に明らかにしないといけない。大学はそういう段階に入ってきています。

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法人化は大学が望んだわけではないと思いますが、報告義務があるのですね
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 法人化して大学自身が自由度を持てるということは、決して悪いことではない。そういう環境をあたえられたら、それを最大限生かすことを考えないといけない。世の中が変わってきているので、社会で認めてもらうには独自性が絶対必要です。組織が時代に合わせてある程度変わっていくということは当然求められるわけですね。でも変わってはいけない物はちゃんと残しながら変えていく。その判断を大学自身ができるようになったということです。本部と部局の関係も同じです。本部と部局が対立する構造を作り出すんじゃなくて、どうやれば協調していけるのか。部局側からは本部をどううまく生かせるのかという視点に立たないとまずいし、部局は東京大学を強くするには何ができるのか、という視点を相互に持ち合わないといけない。それは工学部の執行部と専攻の間でも同じだし、それぞれの構成員も同じ構図にあるわけで、うまく全体がまわっていけばいい組織になるわけです。なかなか大変ですがやる価値はあります。でも基本的に組織の構成員が楽しく働けないとだめです。そういうことを言われたらイヤだなぁなんて思うような組織ではないようにしたい。明確なものはあるわけではないのですが、基本的にはそういうことを考えています。


技術職員の人数が少なくなってきて、今後研究科の中をどのように運営していくのでしょうか
 技術職員が定員削減でどんどん減ってきているわけですよね。物件費で雇うことは可能ですが、研究に使えるお金が減っていく。じゃ、それは外部資金で補う、というようなこともあるけれど、どこまで効率化できるかは、組織として真剣に考えなければいけない問題です。また単にコストカットを考えるだけでなく、そこにいる人がどれだけ気持ちよく自分の能力を発揮できるかが重要だと思います。


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大学として最低限必要な資金は国が出すようにできないのでしょうか?東京大学が今の状況を受け入れてしまうと、日本の大学全体がプアな状況に陥りませんか?
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 それをプアと考えるのかということですね。18才人口も明らかに減ってきていますから、どういう構図にしていくのか、という問題は避けられません。東京大学と同じように他の大学でもやりなさい、といわれると結構きついかも知れない。ただ国も科学技術のために25兆円を5年間で出そうと決めました。それに対して、使う方も説明責任を果たしていかないといけないと思います。例えば予算が1億来たら半分は支援体制を強化するために使って、あとの半分を研究のために使うという判断はあると思います。

海外の大学などで経験された技術職員のことなどをお聞きしたいと思います
 私はドイツのアーヘン工科大学に留学したのですが、ドイツの工学系の研究室は、基本的に大きな組織です。一人の教授に職員が何十人とついている。学生の数はこちらと変わらないですが、職員の数が全然違います。研究所に学生がいるというイメージなんでしょうね、工場から実験室まで全て研究室の中に揃っています。実験装置もちゃんと設計して、ものすごいしっかり作って、正確なデータを取ろうとしていますね。それがとても印象的でした。
 当時向こうはマイスター制度というのがあって、工場というか試作室があるとそこに親方がいて、弟子がいて、ものを作りながら修行をしていく。その中から、マイスターになっていく。そういうシステムが動いていましたね。実験装置を作る人、実験をする人、そしてデータを取る人がいる、そんな感じでした。

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東大での職員との関わりはいかがですか
 以前に総合研究所の機械方面研究室の世話をする立場になったのですが、試作室にはたくさんの人がおられました。今の工学部では一つの研究室をそんなに大きく保てないでしょうけれど、ものを作ったりするのはドイツにはちゃんとしたシステムがありましたね。大学院は内田・斉藤研でしたが、森田さんや斉藤さんにお世話になりました。工作室の旋盤が使えるようになりすごく嬉しかったのですが、怖い技術官の方に怒られながら使っていました。大学院の時は実験装置を自分で作りましたね。あと白倉研に入ってからは榎本さん、川田さん、市川さんなどにお世話になりました。榎本さんがすごくよくやってくれて、「明日欲しいんだけど」とか無理を言っても、非常にフレキシブルにやっていただいいたのでずいぶん助かりました。

昔は研究室に複数の技術系職員がいて、技術の伝承と研究室管理ができたのですが
 昔と今では運営モデルがだんだん変わってきて、全部を自分の中に抱え込めなくなってきた。新しいモデルに移らないといけないという状況になってきている。そのなかでどうやって運営していくかというのが今後の課題です。ひとつの講座の中で全部完結するのではなくて、講座(研究室)があってそれをサポートするまわりと協調してやっていくという風になってきているのですね。
 モデルとしては一つの研究室で仕事に追われるよりは、仕事の質や将来性を考えると、連携して一種のクラスターを作って、全体を支えるために協調していくような方向にいかないと、全体が回らなくなっていると思います。仕事も多種多様になってきています。昔だと研究室のテーマ、例えば流体一筋でよかったんだけど、今は量子力学から生体医療までやっているわけだからものすごく広がっている。しかも工学の広範な知識というのは当然求められているわけで、一人でサポートするのはとても無理です。そうするとある部分はこちらと連携するし、別の部分は違うところと連携するという工夫しないといけなくなってくる。技術職員の方も、個人として多様性を持って欲しいとは思いますが、人間本当に能力が発揮できる分野はそんなに多くはないですよね。そうするとひとつの研究室だけで自分の能力を生かすよりも、ある種のマスを持った組織を作って全体と連携していく方がパワーが上がる筈ですね。

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これまで技術職員は研究室で育ってきた人が多いので、研究室から離れるのはいろいろな意味で不安が多いと思うのですが
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 会社でもある種の教育は外に求めるというようになってきています。だから技術職員も、ある先生とだけ組んで仕事をするのではなく、教育や能力開発に関してもOJT等を生かしてどんどん自身を育てていかないといけない。「私はこれができるからこの仕事しかしません」といったらその人の成長はそれで終わってしまう。自分自身が「私自身が技術部に対して何ができるのか」という視点を持って成長していけば全体が強くなるはずです。それが技術部であるかも知れないし、工学系研究科かも知れない、東京大学や社会かも知れない。それができるような組織になっていかないといけない。技術部がどういう教育をしていくのか?技術職員の方がどう育っていけばいいのかを自分自身で考えていろんなことをやってゆく。それができるようなフレキシブルな体制を作ってゆく、というのが技術部に求められていることだと思います。

大学にとって自分がどう必要とされるかを考えることが大切だということでしょうか
 必要にされているのかということよりどう提案できるのかという視点が重要だと思います。もちろん、大学側もこういう仕事が欲しい、こういう技術が欲しいという情報は常に流していかないといけないわけで、我々(教員)が研究をやろうとおもったらそれをいろんな所に求めているわけですね。あの人に頼めばこんなことができるよという体制があれば、そこに頼みに来るわけですよね。そういう意味でホームページのような情報発信源は重要だと思います。

技術部について運営面での課題をお聞きします
 まず評価・待遇についてですが、風通しのよい組織をきちんと作って、ちゃんと評価をするべきだと思います。評価して俸給を上げるというのはこっちでは勝手にできない。硬直した人事体制の中で動いているから。だけどお互いに評価しあって、感謝状や何らかの対価を差し上げるというのは、取ってきた外部資金の中から、ある種の使い方はできるかなという気はするんですよね。コストがかかると言われるだろうし、検討してもできるかどうかわからないけど、そういうシステムをつくって、働いた人がちゃんと感謝されるようにする必要があるはずで、そんなことが回っていくようになれば、もうちょっとうまくいくんじゃないかと言う感じはします。

業務範囲とか、責任とか、評価とかいろいろ問題はあると思いますが
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 人事管理という意味から言うと、命令系統がどうなってるのか、ということがあります。「専攻長と技術部長のどちらのいうことを聞けばいいの」とかね。すぐそういう問題が出てくると思います。だから例えばエフォート率のようなものを管理するとか。エフォート率というのは、80%は学科の仕事をします、20%は技術部で仕事をしますという切り分けですね。きめの細かい管理をすればできるのですが、ただそのために仕事が増えてしまうと本末転倒です。仕事ってそんなにきちんと切り分けられるわけではなくて、両方やってるから全体がうまくいくこともあるわけですよね。逆に、あまり労務管理をやると全体効率が落ちると思います。精神論でいうと志を高く持てとか言われるけど、そういう意味で日頃仕事をしていて楽しいと思える環境にならないならやめた方がいいと思います。

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技術部と技術職員に望むことはなんでしょうか
 仕事をどうポジティブに考えられるかが、活力があるかどうかにつながると思います。後ろ向きに考えるとしんどい話です。やっぱり何かをやって、自分で面白いと思えるかどうか、人の役に立ってると感じるかどうかでモチベーションが全然違ってくる。
 「この仕事をしてよかった」と思えるのは、まわりから感謝されるかどうかというのが大きいですよね。そういう観点から見ると、その人がいい仕事をしてくれたら、きちんと「ありがとう」といえる環境を作る必要がある。技術部でもいい仕事をした人を表彰するなり感謝状を送るなり、評価といってしまうと難しいですが、何か考えていかないといけませんね。「仕事してもしなくても同じ」と感じる環境では良くない。風通しのいい組織で、その人が何をやっているか見える組織でないとだめなんですよね。「誰かが何かやっている」で終わってしまうのはまずい。仕事をしている人がきちっと見える組織をどうやって作るかというのはものすごく重要だと思います。もう一歩踏み込んで言うと今起きている倫理上の問題だって、監視するんじゃなくて風通しが良くみんなが見えていると「仕事はこういうふうにしないといけないんだ」というのがそれぞれの人の中に植え付けられていきますよね。こういう風にやるのがいいんだ、何がよくて、何が悪いかというのも一種の文化だから、風通しのいい組織であれば自然に形成されていく。そういうのがちゃんと育つ必要があるかなと思います。そういう意味では講座の中に閉じこもると良くないんですよね。

現在の趣味と、先生方がいつまでも若く精力的に活動できる秘訣をお聞きします
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 少なくとも年に1、2回はスキーに行っています。毎年北海道で、大橋秀雄先生と研究室のスキー合宿をして、2、3日朝から晩まで滑りまくっています。先輩の大橋先生も75才で、奥様にやめておきなさいと言われながら滑っておられます。他の先生方もそうですが、元気の秘訣は学生とつきあっている、ということでしょうか。多くの先生方は自分で考えて、自分で決断しないといけない立場に立っておられるから、ある意味でいつも何か考えているわけですよね。これは誰にでもいえることだと思いますが受け身になったらだめなんですよね、多分。受け身になって言われたことをどうしようか、っていうと考え方がどうしてもネガティブになってしまう。そういう意味で能動的に何かをやろうと思うと自分で考えますよね、こうすればいいかな、ああすればいいかな、こうしたほうが人のためになるかな、そういうポジティブに考えた方がそれぞれの人も気持ちよく動けるわけですね。
 大橋先生もずっとそういう思考をしておられますし、多くの人がそうだと思うんだけどもある種自分で責任が取れる立場に立ってる。それが若さの秘訣かと思います。その責任の範囲だっていろんな範囲があるわけで、それに対してそういう思考をする、というのが重要かなと。

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ポジティブで責任を持った行動が秘訣ということですね
 組織の上にいる人は、一緒に働いている下の方が考えてきたことをちゃんと受け止めるべきだと、ポジティブに受けとめるべきだと思う。で、下の人がポジティブに考えてれば受け止められるけれども、ネガティブに考えていってきたことをポジティブに受け止めるのは難しい。みんながポジティブに考えるようになると組織全体がポジティブの方向に行くのだと思います。

技術部、技術部ホームページに期待すること
 先生方から言うと新しい技術部ができたわけで、何か例えばものを作りたい、頼みたいと思ったときに、専門分野別に相談受けますよ、という所があるといいな、と思います。企業の人だって研究室のホームページを覗いて「この先生はこんなことをやっているのか」ということがわかって相談に来るんですね。そこで産学連携が始まるわけで、それぞれの研究室と技術部の関係というのもそういうのがあればいいんじゃないかと思いますね。

本日はありがとうございました。

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インタビュアー感想
 
  • 笑顔で話される先生のおかげで、和やかで楽しい雰囲気のインタビューでした。少年時代のエピソードや研究の話を伺っているうちに、時間があっという間に過ぎてしまい、インタビュアーとしては少し反省しています。技術部に関しては、技術部・技術職員に関する認識が先生方の中でかたまりつつあるようです。技術職員側からどのような提案をするかが大事な時期が来つつある、という感想を持ちました。

  • 工学系研究科長との対面という,私にとってはとても緊張の時間でしたが,お話を聞いているうちに引き込まれてしまいました。
    「ありがとう」といえる環境作り,という点が一番印象に残りました。仕事だけでなく,日常においても取り入れていきたいと思っております。

  • 工学系研究科に関する建設的なお話を興味を持って伺った.技術職員の将来の展望は未だ開けているとは言い難いが,今後のあり方についての提言として真摯に受け止めたい.

2006年4月20日 研究科長室にて収録
インタビューアー 山内, 小林, 畠山

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