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第一回 技術部ホームページ企画

 技術部ホームページを立ち上げるにあたり第一回企画として、副研究科長と技術部統括責任者である技術部長を兼任しておられる田中先生にインタビューをお願いしました。先生には快くインタビューに応じていただき、2時間に渡り熱心にお話をしていただきました。内容の全てをご紹介することは難しいのですが、できるだけ多くの内容をお伝えできるようにまとめました。技術職員の未来像を考える際の参考にしていただければ幸いです。

田中技術部長インタビュー

ふるさと
 私は生まれも育ちも大阪の岸和田です。気候が大変暖かく住みやすくだんじり祭りが有名なところです。プロ野球の清原選手は中学校の後輩です。壁にある写真は親父です。学校を出てすぐ旋盤工の丁稚奉公から始め、戦後町工場を始めました。私も学校から帰ると旋盤作業などを手伝いました。今でも機械加工は人には負けないと思いますよ。それで今でも体を動かすことと技術的なことが大好きです。去年はだんじりの300年祭でした。だんじりは技術的にも大変面白いんですよ。だんじりを作る職人は今でもたくさんいて、技術を磨きながら伝承しています。文化や技術はこのように受け継いで守らなくてはいけません。私は今でも都合さえつけばだんじり祭りには必ず行きますよ。 子供の頃、家の棟上げ式を見るのが好きでした。いかに木を組み上げて家を立ち上げてゆくのかが面白くて、いつも自転車で見に行っていました。中学校の頃は真剣に宮大工になることを考えました。高校の頃は歴史と地理が好きで、京大の文学部の先生に相談したら「それは趣味でもできるから、もっと大事なことをやりなさい」と言われました。「原子力にも興味がある」と言ったら「原子力は大切だから頑張りなさい」と言われて今に至っています。


研 究
 私の専門は原子力です。最近はシステム量子工学と呼んでいますが、原子力がどんどん発展して、量子工学とか大きなシステムの設計などをしているのが私の所属する専攻です。私はその中でも核燃料サイクルの基礎研究であるとか、核融合などをやっています。このような基礎的研究は、見方や対象を変えればいろいろな分野に応用できます。たとえば放射性廃棄物の挙動を研究すると、環境中の有害物質の挙動にも応用できます。研究室メンバーは、技術職員が一人、若い助手が一人、助教授は3人おります。教員の交流が行われるようになってきましたが、もっと流動化したほうが良いと思っています。私も体が動く限りは新しいことを考えて挑戦したいと思っています。


技術職員との関わり
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 これまでたくさんの技術職員の方とお付き合いがありました。大学院に入った頃は技術職員の方と一緒に装置を作ったり、一緒に会社に相談に行ってもらったり、作った装置がうまくいって皆で飲みに行ったりというような良い思い出がたくさんあります。昭和56年から13年間、茨城県東海村の原子力工学研究施設で仕事をしていました。一緒に仕事をして技術職員の方達と親しくなって来ると、彼らの悩みとかもいろいろ分かってきます。東大で働く技術職員として力をつけ、誇りを持って仕事をしたいという人が多いんです。一緒に勉強会や研究的なこともやりました。自分の力を発揮して能力を伸ばしたい、それによって有意義なものを生み出して誰かの役に立ちたい、そういうことは誰でも一緒だと思うんです。13年間やってきて、そういうことが本当に良く分かりました。ですから仕事をして自分の人生が楽しくないとね。楽しいのが一番じゃないですか。そのようなところが、私の技術職員との関わりと印象です。

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技術部長に就任して
 技術部長に就任してからですが、技術職員に関して何をしようか悩みました。技術職員の組織や処遇に問題があるのは理解していますから、何かできないかなと思っています。せっかく106名の技術職員がおられるのに、東大で働いて良かったと思えるようなことができないかなというのが発端なんです。今はバーチャルな技術組織を実体化していってどんどん良い仕事をしていただいてと考えています。懇談会や意見交換会を開いていって、技術部が立ち上がってくれて、技術職員が元気になっていっていただければ良いなと思っています。


技術部の実現のために
 技術部の実現が難しい問題であるのは理解しています。大学内の組織は何でこんなにややこしいのかと思われるかもしれませんが、これはこれで最適化されているんです。最適化されているんですが、もう少し良いものにしようと思うと、何か新しいことをやらなければならない。それは最適化されているからいいと思ってもだめだし、どこかが頑張らないと変化は起こらない。「技術職員が大学にとって重要なメンバーである」と言うだけなら言えますよね。でもそうではなくて、言わなくても重要なメンバーであると認識され、一緒にやって行こうと思ってもらわなくてはいけない。大事なのはそのような状況に持っていくことだと思うんです。技術部実現のためには技術職員の皆さんの努力と、周りの状況をうまく回して行かないとできないんです。その辺の仕組みをもう1つ2つ考えたいと思っています。


全員参加
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写真:だんじりネット(*1)
 幕末に大久保とか西郷とか下級武士が頑張っていろいろなことを成し遂げましたね。彼らが意見を言う機会があったことと、理解する人がいたことが結果につながったのです。頑張った人と評価する人の両方がいた訳ですね。良い人材がいたのに結果が出ないというのは、組織の上の方が悪い訳です。これは実は厳しい議論になってきますし、評価は高いレベルでしないと意味がありません。まただんじりの例で悪いんだけれど、あれは全員参加なんです。町内の人は全員参加で、役がなければ作るんです。だから全員に仕事がある訳。あれだけ事故が多くても300年続いて、尚且つ毎年やろうとうのは、皆ハッピーなんです。ベテランの技術職員の方に今までやってきたことを大きく変えてもらうのは難しいことです。それよりいかに良いところや経験を引き出すかだと思うんですよ。ただそこまで行くには時間がかかると思うし、沢山の壁があるかもしれない。壁は無理に潰そうとすると物凄い努力が要る割にはうまくいかない。だから無理はしないで、努力しながら発言して行くことです。

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提案と評価
 技術部立ち上げの具体的な構想はまだないんです。やっぱり一番の基本は働いている人が健康でハッピーで、おいしくお酒が飲めるという状態にあるということかな。自分たちの中や小さなグループでいくら提案しても全体が動かないとすれば、良いタイミングで発言しなければならないし、それも評価される場所で発言しなければなりません。また評価をする組織も作って行かなければなりません。主張すると同時に実態や証拠も示して行かなければなりません。それは別に上から与えられた仕事をやってもいいんですが、こちらからどんどん提案していってもいいのかなと思うんです。将来必要になる資格を取って、こんな業務も必要だろうと提案して行くことも、考えて行けば良いのではないでしょうか。その辺がうまく歯車がかみ合ってくれるといいんですが。


雰囲気
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 注意したいのは仕事が増えて厳しくなってゆくという議論になるのではなくて、ハッピーになって行くんだと考えて欲しいんです。私もまだうまく言えないんだけれど、気分的にはそんなことなんですよね。それを我々はもう充分仕事をしているんだから、もうこれ以上できないよというような、そうゆうのが見えてくると、「何やうまくいかないじゃないか」とかね、周りに悪い意味での評価をされてしまいます。技術業務もね、会社だったら分業してそれぞれのパートが頑張って協調しながらうまくやっていきますよね。大学はまだその辺がうまくいかないのかな。幕末のように若い人達が勉強して提案していったら活躍の場が与えられた、というような雰囲気が両方から湧き上がってこないとだめだと思うんです。次の段階では専攻長の先生と我々が話をしなければなりません。その時にネットワークグループが頑張っているなとか、技術職員の皆さんが意欲的な人や元気な人が多くなっているなという印象があると議論しやすいと思うんです。

進め方
 これからの技術部実体化の進め方ですが、できるところからやるとか、走りながらやった方が良いとかいう議論は判りやすいんですが、組織と人が絡んでくる問題ですから、簡単な議論ではできないというのは充分承知しています。組織を動かそう、作ろうということですから、どういう手順でどうやって行くのが一番良いのかという問題だと思うんです。実際に人がいて、色々なバリアがあることが分かっている中でどうするかということです。平尾研究科長も我々も皆さんも悩んでいる方向は同じだと思うんです。専攻長も悩んでいるし講座の先生もそうかもしれない。悩んでいる質と量が若干違うかも知れない、しかし大きな目で見れば同じ方向を向いている。その時に一方だけがどちらかの方向に走り出そうとしても全体としてはストーリーが成り立たない。どこかで方向性とか理念を考えて説明しないとうまく行かない。でもその理念ばかりやっていて、技術部の実現が10年後20年後ではほとんど意味がないと思うんです。そんなに遠くない将来に100%でなくても全体の何割かでも行ければ、将来の姿はこうだ理想的な姿はこうだと実際に提示できる訳です。理念がこうであって将来の姿をこう考えるという中で、まずこことここをやって行きたい。そんなことかなと思っています。


ホームページの役割
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 今はまだ多くの技術職員の方たちに対して、情報が不足していると思うんです。そうするとうまくいかないですよね。せっかく皆さんが持っている技術やノウハウを積極的に使って貢献していただかないといけないのに、疑心暗鬼になるような状況になってはいけません。多くの方が積極的に活動できないとしても、暖かく見守って支持してもらわないといけないし、いろいろな意見を反映していかなければなりません。そのためには技術部ホームページによる情報伝達の役割は重要だと思います。

最後に
 他大学の技術部との交流ももっとやっていただいたら良いと思いますよ。東海でも技術研究会というのを学外の方とやっていました。その他にも学生の相談を受け付けたり、学内のいろいろな環境を整えたり、技術部でできることは学内にたくさんあると思うんです。ですからどのような組織が良いか検討すると同時に、技術部が中心となって考えた提案や、開発した技術もどんどん発表してアピールしていったら良いと思います。ですからその第一歩として、今動き出している情報ネットワークグループにものすごく期待しているんです。問題点は煮詰まって来ています。理念と技術部の姿が決まればすぐに実現できる訳ではありませんが、技術部の実現は現実的だと考えています。

2004年12月6日 田中教授室にて収録
インタビューアー 山内 森田

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